アメジストライト

2016年9月20日

梅雨が始まるある日、山梨県の小さな谷を進んでいた。クヌギ林の間からそれは現れ、そして一目惚れしてしまった。110度にハングした花崗岩に素晴らしい顕著な2本のクラックが左右に伸びていた。良く目を凝らすと僅かにチュークが残っている、誰かがこの岩を触っているのは明白だった。どれほどの難しさかも解らなかったが、特に右のラインに魅了された。帰宅後、このエリアに詳しい知人に連絡すると、なんと彼がアメジストライトと名前を付けて試登しているとのことだった。グレードは5.13a ~ bだろうとのこと、親切にも彼から「ぜひ登ってやってください」と嬉しい言葉をいただいた。

本来ならばその岩は冬がベストだろう。しかし何ヶ月も待ちきれないので、気温も湿度も高くコンディションとしては悪かったがトライを続けた。指のハンディが不利になる個所も少なく、トライごとに面白さは増した。何度も通ううちに動きは確実になっていった。

日差しは強いが、谷から爽やかな風が吹く7月30日、ピンクポイントながらついに成功した。残すはプロテクションを自力にセットしながらのレッドポイントのみ。ヒマラヤに行くために体重を増やす前に登っておきたかった。

初めてアメジストライトを触ってから9日目の9月18日、1回目、核心部手前で手に汗をかき落ちてしまう。そして2回目、動きを完ぺきにこなし、何度も唸り声をあげながらついにレッドポイントで登りきった。久しぶりの全力で終了点では吐き気をもようすほどだった。このラインに出会えた事、このラインを譲ってくれた知人に感謝だった。

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