青色のドラゴンカム
2017年6月26日
その日はとても暑く、日差しも強かったので日焼けがますます進んでしまった。3人で快適に12ピッチ程のクライミングを楽しみ、古典的な鶴ルートから三つ峠の山頂付近に上がったのは午後5時30分を過ぎていた。友人達とクライミングギアを整理していると青色のドラゴンカムが無い事に気が付いた。周りにも落ちていない。ザックの底にもない。考えられるのは何処かのルートに残したままになっていることだ。急遽、山頂経由で可能性のあるルートにロープをセットして降りていく。見つからない。暗くなりかけていたが、時間も気にせずロープを頼りに探すが見つからない。そのカムは使いやすいから、また高価だからと言うだけではなく諦めたくない理由がある。友人の形見だからだ。
6年前のヒマラヤクライミングの準備の際、軽量のカムを探していると、「ヒマラヤに持って行っていいよ」と知人からドラゴンカムを3つ渡された。その時、彼はすでに重い病気だった。あれ以来、僕は青色のそのカムを愛用してきた。
翌朝、再び三つ峠に向かった。天気予報は正確だった。雨、風ともに強かった。山頂に到着した時は、汗で体も冷えた事に加え、古い雨具からは雨が浸透し、とても寒かった。昨日同様に再びロープで降りながら丹念にクラックの中を覗き込む。やはり無い。身体を動かしていても震えが止まらないほど寒い。昼近く、僅かに見つけられる可能性が残されている鶴ルートを友人が降りていく。雨も風もますます激しくなってきた。これで駄目だったら諦めようと思っていたその時、下の方から「見つかった」の小さな声。それから20分後、全員が大地に戻った時、クライミングと似たような大きな達成感を震えながら皆で味わった。
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