この岩のために半年以上集中してトレーニングしてきた

2019年7月2日

昔から登れなかったからといって、再度挑戦することは稀だった。それは他の山域にも素晴らしい魅力的な課題が見つかっていたからだ。それでも冬のパタゴニアのフィッロイや中国四川省のポタラ峰等のアルパインルートや、ヨセミテのヘブンなどのフリールートに2年連続して挑戦した山や岩はある。どうしても諦められない気持ちがそこにはあったからだ。

昨年に続き先月イタリアに登りに行った。目標はただ一つ、美しくオーバーハングしたクラック。この岩のために半年以上集中してトレーニングしてきた。本来ならばイタリアの文化や自然も楽しむべきだろうが、花崗岩に刻まれたクラックが登れるか、登れないかだけが興味の対象だった。

残念ながら2度目の挑戦も成功はしなかった。わざわざ海外まで行かなくても似たような岩は国内にもあるのでは、と知人は言う。また今までの40年間で沢山の山や岩で成功体験してきたのだから欲を引っ込めても良い時期ではないかと帰りの飛行機の中で思ったりもした。

しかし相変わらず登りたい、諦められないと思っている自分が今いる。過去の登攀、年齢、あるいは失っている多くの指、それらが時々頭の中でグルグルしているが、何時か再び荒い花崗岩のクラックに、クライミングシューズと手をねじ込みたいと思っている。
(写真撮影 鈴木岳美)

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